20160308北日本新聞より抜粋「とやま防災総点検」(上)
とやま防災総点検・東日本大震災5年(上)地震/「人ごと」意識強く
11日で東日本大震災から5年になる。あれほどの災害は富山でも起きるのか、対策の現状はどうか、課題は何か。地震、津波、原子力災害をテーマに、3回にわたって県内の防災体制を総点検する。 (社会部・島津あかね)
■進まぬ補強 保険加入
2011年3月11日午後2時46分、東北地方は最大震度7の激しい揺れに襲われた。マグニチュード(M)は日本最大規模の9・0だった。
その揺れは県広域消防防災センター四季防災館(富山市惣在寺)で体験できる。90秒間のうち、体が飛ばされそうになる震度7ほどの激しい揺れが2回。以降も震度3~4が続き、手すりにつかまらないと立っていられなかった。
強い揺れと富山は無縁ではない。地震が少ない印象だが、活断層は眠っているだけ。県の推定では、呉羽山断層帯の活断層が同時に動けば、M7・4の地震が発生する。
死者は約4300人、負傷者2万1千人。地下に断層面がある射水市沿岸では震度7となり、周辺では地面が割れて水や砂が吹き出す液状化が起こる。30年以内の発生確率は5%だ。
対策の現状を検証してみる。まずは液状化。国土交通省によると県内は沿岸部を中心に液状化しやすい地盤がある。国が管理する河川では対策が施され、富山河川国道事務所は「必要な箇所は終えている」と説明。国道でも工事が進む。
次は建物だ。県の推定では、最悪のケースだと36万棟以上が全半壊する。日本損害保険協会によると、県内の世帯ごとの地震保険加入率は2014年度で19・5%。全国平均よりも低く「大地震は人ごと」との意識が垣間見える。
県内の住宅の耐震化率を調べた。1981年以降に建てられ、耐震化を満たしている住宅は最新の2008年のデータで68%。85%になれば死者は半減するとされるが、17ポイント届いていない。減災のチャンスを逃しているともいえよう。
県は耐震化診断や補強に補助金を出している。大震災直後は利用が増えたものの、14年度に補強で補助を受けたのは18件にとどまる。家ごと改修すれば200万~300万円掛かるだけに、担当者は「お年寄りだけの世帯は、なかなか踏み切れない」(建築住宅課)と説明する。
県内で最も高齢化率が高い朝日町。80歳以上の世帯が全体の半分を占める笹川地区は、地域活性化に力を入れるものの、防災はこれから。自治振興会長の小林茂和さん(68)は「古い家の対策も考えなければならないと分かっているが、みんなに大きな地震は来ないとの思いもある」と語る。
市町村ごとに差がある取り組みもある。自主防災組織の組織率は78%に上るが、高岡市は75・4%、最低の富山市は56・6%。共同通信のアンケートによると独居老人ら要支援者の避難先や支援する人を定める個人計画の作成は、魚津市や氷見市など9市町村は着手もしていない。
県はこれまで、一つの市町村を選んで年1回の総合防災訓練を実施。東日本大震災以降は連携を重視して複数の自治体にまたがる広いエリアで行い、課題の洗い出しにもつなげている。昨年9月は魚津市北鬼江のありそドームをメーン会場に、4市町村の住民らが、震度7の地震を想定し、緊急時の動きを確認した。
メーン会場の地元の道下地区では500人を超える住民が参加。地区の自主防災会長を務める川戸眞二さん(66)=北鬼江=は「迅速に避難所を設けられるか、避難者数が予想を超えたら、夜に発生したら…。課題が見つかって良かった」と振り返りつつ「対策は簡単ではない」。
富山大大学院の竹内章教授(地質学)は、県民には「地震は起こらない」という意識が強いと指摘する。「地震は確率だけで計れず、いつ起きるか分からない。何が起こり得るか危機意識を持ち、対策しなければならない」と警鐘を鳴らす。
■ひとくちデータ
【発生確率】
M7規模は30年以内に5%
【地震保険加入率】
県内19.5% 全国28.8%
【住宅耐震化率】
県内68% 全国79%
【自主防災組織の組織率】 (低い順番)
(1)富山市56.6%(2)高岡市75.4%(3)立山町91.5%
【要支援者の個人計画未着手自治体】
魚津市、氷見市、黒部市、南砺市、上市町、立山町、入善町、朝日町、舟橋村
■取材後記
30年以内の発生確率は5%。ここで高をくくってはいけない。大地震を起こし得る活断層は呉羽山断層帯以外にもあるし、調査が十分でない断層もある。その日がきょう訪れるかもしれないと想像し、備えをすることが防災の第一歩。県民の最大の課題は「人ごと」意識だと思う。
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